「グラハムさん、重い」
「それは俺のリカルド坊ちゃんへの愛がそれほどまでに大きいという証だ。ぜひ喜んでくれ」
「…悪いけど全然うれしくないよ」
ああもういったいなにがどうなってこんな状況になっているんだ。オレはさっきまで一人でソファに座って、
ゆったりと新聞を読んでいたはずなのに。どうしていま、グラハムさんに膝枕しているんだろうか。
「…クリスなら今はいないよ」
「うむ、どうやらそのようだ。俺としてはあの野郎との決着をつけるのもまた楽しい話だと思っていたわけだ
がまあ、それはそれ、だ」
「なにいってるのかさっぱりわかんない」
まあ何を言っているのかわからないのは、なにもいまに始まった話ではないけれど。
その日夕暮れ時に表れたグラハムさんはなぜか妙に上機嫌だった。どうやって入ったのか、という疑問が一番
最初に浮かんだけれど、大方部屋中の鍵を片っ端から解体してきたに決まっているからあえてその質問はしな
かった。ああまた鍵を取り換えなければ。まったく、今月に入ってからでもいったい何回目だろうか。請求書
を叩きつけてやりたい。
「とりあえず、下りてくれない?」
「ふむ、なんだか冷たいな坊ちゃん。俺なりの愛情表現なのだが」
「…」
これもまた今に始まった話ではないけれど、脈絡が、ない。どうしてくれようかこの男は。はあ、と投げやり
に溜息をついて早々に説得は諦めた。この人に理を説くなんて、それこそどうかしてる。
「(シャムはよく我慢してられるよなあ)」
オレには到底無理だ。なんというか、苦手だ。理由は自分でもわからないけれど。だんだんと眠たくなってき
た瞼を堪えながら、ぼんやりとグラハムさんを見下ろす。グラハムさんはオレが抵抗しないことを良いことに、
好きなだけ膝枕を堪能している。いったいなにがたのしいんだろうか。グラハムさんが頭を動かすたびに彼の
細い髪の毛がさらさらとオレの膝を撫でてなんだかムズムズした。その髪はオレの癖っ毛とは全然違っていて、
まるで女の人のようだ。
「(…黙ってれば綺麗なのに)」
気だるそうに開かれた青の瞳、それにこのさらさらの髪。持っている血まみれのレンチを除いたなら、その姿
はまさに線の細い気弱な美青年といって過言ではない顔立ちであるのに。全身吸血鬼にしか見えないクリスと
は違って、黙ってさえいれば普通の人に、も、
「…嬉しい、嬉しい話をしよう」
「…、は?」
「坊ちゃんがじっと俺を見つめている。それも恋しているかのように愛おしそうに!これはもう俺の思いがよ
うやく坊ちゃんにも伝わったということだろうか!?いやそうに違いない!いや待て待て待て、それより先に
考えることがあるだろう! そう、リカルド坊ちゃん!」
「な、」
「式はいつにする?」
「、」
その言葉を頭が理解する前に、反射的に手元にあったクッションを思い切りグラハムさんの頭に投げつけた。
ぐえっとか変な声が聞こえたけど全部全部、無視。無視無視無視!馬鹿だこの人やっぱりただの馬鹿だ!
「まあそんな照れないでくれ、坊ちゃん」
うるさい!
余裕なんて、
11/09/20
|