振り返る、までもない。この世で最も嫌いな男の声だ。
歩調をゆるめることなく通り過ぎようとした所で、後ろから手首を強引に引かれて、そのまま態勢を反転させられる。
眠たそうでありながら、きらきらと嬉しそうに輝く奴の瞳が間近に接近し、不意に息ができなくなった。
「久しぶりじゃないか!」
この男とは、ただ会話をするのでさえ億劫に感じる。
不快感のままに奴の腰あたりを狙って足を振り上げるけれど、奴はますます腹立たしいことにそれを難なく躱してしまう。
本当に鬱陶しい男だ。
「…何の用だ」
「ん?やけに不機嫌だな。不眠症か?」
貴様のせいだろ、と怒鳴りたくなる衝動を抑えて、奴の瞳を睨み返す。
いつも、こいつは何を言われても、嬉しそうにしている。
私がどれだけ蹴り飛ばそうとも、懲りずに何度でも微笑みかけるのだ。
馬鹿みたいにそうやって、好きだとか、理解できないことばかり言うのだ。
「俺はただ、君に会いたかっただけだよ」
理解できない。馬鹿げている。
だから、私はこの男が嫌いだ。これからもずっと、そのままでいいのだ。




     そのままで
                  11/11/11