得体も知れない感覚を残してどろどろとした思考から抜け出した。目を開ければ夜中だというのに煌煌と明かりのついた
いつものマンション。まるでエージェントと追いかけっこでもしたかのように息が苦しい。首に手を当てればべっとりと
不愉快な感触が手に巻きついた。ってゲルバナか僕は。そのまま暗闇に慣れていない目を眼球を当てもなく動かして、隣
マユの横顔を観察した。今日もしかめっ面のままひたすら夢の中に埋没している。この程度の刺激では目を覚ますはずも
ない。睡眠中にも僕の腰を頑なに掴んで離さないという彼女の癖は冬場は温かくて良いのだけれど、夏はね。暑さと寝苦
しさがチキンレースを始めてしまうせいでどうも。だからこんな悪夢を見るのか、とか投げやりに八つ当たりしてみる。
嘘だけど。というわけでかわいそうだが少し離してもらうしかあるまい。そうやってようやく呪縛から解き放たれて、ベ
ッドから立ち上がろうとした所で、どうしたことだろう。足がすべって見事に床に転げ落ちた。バナナの皮かなともう一
度トライしたけど敗北。あれ、というかなんだか三半規管がおかしい。いや決してぐるぐるバットに興じてたわけじゃな
いんだけど。成長期かなー。立てないので仕方なくそのままほうほうの体でベランダへと匍匐前進する。それはもう文字
通り必死の思いでガラス戸を引いて、ばたんとベランダに転げ出た。風とそれから冷たいコンクリートが僕の火照った脳
みそを冷却して、思考が少しだけクリアになる。少し、だけだけど。


あはっはは、なんだかこんなこと、前にもあったな。あはっはっはは、

あは、      あ、


「、あー……」







すみません、すみません、すみ、ません。
僕は、人間の出来そこないで、劣化版で、捏造品、だから、
もう涙なんて出ないんです。


だから、
夢にまで、出てこないでください


「あ――――――――――――――――、」









ねがいごと ひとつ 11/09/16