記憶に残る彼女を、好き勝手につぎはぎして作った紛い物。自分に都合がいい部分だけをただ加工しただけなのに、
それが嬉しいなどと嘘をつく。待っていたと嘘をつく。そうやってひとつひとつ自分自身を否定してようやく、僕は
立っていられるから。
「・・・やあ、長瀬、」
「久しぶりっスね、透」
会わないうちにますます捻くれたッスねえ、と長瀬は笑った。それはどこからどう見ても僕の知っている長瀬で、だ
からこそ彼女はここにはもういないのだと変化のない事実が、その度に眼前に突き付けられる。夢での死者との邂逅
率に定評がある僕だけれど、今回ばかりは異議ありと指を突き付けてやりたい。誰に、とか言ってる場合ではないの
だ。けれどそれが自発的にできないから夢なのであって、だから僕は逃げ出す事もできずにただトラウマを自分でえ
ぐり続けているしかないのだ。
「長瀬は、変わらないね」もうしんでるからかわりようもないか。
「透だって、変わらないっスよ」
透、と呼ばれるのに慣れたのはいつのことだっただろう。彼女が死んだ今となっては、もうその呼び方をするのは一
樹一人になってしまった。僕の偽物長瀬は、眉ひとつ動かさす、生きていた長瀬透を模倣する。完璧な演出。だから
こそ、その笑顔がただ僕に突き刺さる。
「ねえ、透」
「なんだい」
「透は、私が死んでせいせいしたッスか?」
くしゃり、と長瀬の顔が歪んだ。彼女のこんな顔は僕は見たことが無いから、きっとこれも僕の想像がつくった紛い
物に過ぎない。天野海豚にも似たその表情パーツは、今にでも涙がこぼれそうで、それでもなおまっすぐに、ただ僕
を見つめていた。
「だって全部私のせい、だもんね」
僕の記憶をそのまま投影した彼女の小さな仕草のすべてが、僕の脳内をかき乱す。その反動できつく閉めていたはず
の蛇口が無造作に捻られて、零れていく。心が、滝のように空っぽの僕の中に流れ出す。せきとめておいたはずのそ
れが、僕を、確実に蝕んでいく。水なんてなくても、人間は溺死できるのだ。
「透は正直ッスね」
弱弱しく微笑んだ長瀬の言葉に、否定も肯定もできなかった。言葉にすればすべて嘘になってしまうのに、いつもの
ように嘘をつくことを、僕の何かが頑なに拒んでいた。
「透は、私と会えて、幸せだった?」
それの答えを僕はきっと持っていない。今までも、そしてこれからも。だって長瀬は死んでしまったのだから。長瀬
は死んで、ちっぽけな白い灰になって、長瀬と歩んでこれから得るはずだったその答えは、解読不能のまま土に還っ
てしまったのだから。君が好きだったなんて、そんなこと、今更なんの意味も持たないのだから。何も言わない僕を
長瀬は笑ってくれた。それから、透のそういうところが好きだったんスよ、と嘘か本当かわからないことを呟いた。
他人の嘘の、なんと見極め難いことか。だんだんと輪郭を失っていく意識にまかせて逃げるように瞼を閉じた。深い
深い海の底へ、沈んでいくイメージ。呼吸さえ今はいらない。
海辺にたった一人残して、僕はまた、君のいない世界に目覚めるのだ。
ワールドエンド
12/06/20
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